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理一の背後に荒れ狂うブリザードが、対して、桜木の周りにはお花畑が私には見える。
この温度差…
容易に近づくと、そこから発生するダウンバーストで吹き飛ばされそうだ。
今、ここにある最大の危機。
でも、そうはいっても、何の話か知りたい。
気になって、気になって仕方ない。
さっきから置いてけぼりだし…
無謀なことかどうかの目測を完全に誤っている私は、
「何の、話して」
軽~く、仲間に入れて!ぐらいの調子で入っていこうとして、でも、言い終えないうちに終わった。この場合、終わった、というよりは強制的に終わらされた、という方が正しい。
理一の視界にようやく招き入れられた瞬間、キンキンに冷えた一瞥が私に落とされたのだ。クッと見開いた目が、
黙ってろ、と。
語っている。
目は口ほどに物を言うーー
私は今、恐ろしいほど体感しています。
怖スギ…デス。理一サン…
完全にとばっちりですよね!?
私、関係なくないですか?
思考はフットワークより軽くサクサク動くのに、体が、特に口が動かない。つまりは無意識にも、体はちゃんと自分を守ろうとしているということだ。
自衛に全力を尽くす私とは対照的に、
「穂積、今日のリーダーの話だよ」
いつもと変わらない、明るい調子で桜木が教えてくれる。
私は、今、空気を読む必要もなく育った人の強さを目の当たりにしています。
その桜木が“リーダー”と呼ぶものは、ざっくり言うと、英文をひたすら日本語に訳し続ける科目のことだ。
そのリーダー担当の織部(おりべ)先生が、相当厄介な人で…
「今日って、桜木が当たるの?」
そろそろブチ切れそうな理一には触れず、桜木に話しかける。
桜木は、
「当たるよ~」
理一の時と何一つ変わらず、軽く返してくる。
桜木、それ煽ってる!
煽り行為は立派な犯罪なんだからね!? やめてよ!!
「ホントに訳やってないの?」
「やってないね」
どうにかアレを回避しようとしても、
「チョーク飛んでくるよ?」
「ハハッ、まさか!」
ダメだ…
王子を誘導するなんて、チンパンジーを誘惑するより難しい。
たぶん、チョークの前に、アレが来る。
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