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ともあれ、やっと先ほどの話がわかった。
桜木は英語が得意なんだとばかり思っていたけど、実はお抱えの翻訳家さん(多数)がいたという話だ。
意図せず生まれた、みたいだけど(桜木談)
知ってしまえば、なんてことない話で…
いつものことなんだから、理一がそこまで怒る必要もないと思うのに、参謀の小さな反抗だったんだろうか?
それとも、それだけじゃない?
二人にしかわからない会話が多すぎて、理一の気持ちも話の裏、奥のさらに奥も見えてこない。
足りないままで考えたところで、ボカされた部分が浮いて見えてくるわけもない。透かし絵とか、あぶり出しとかでもないし…
知りたいけど、聞けない。聞いても、どうせ、はぐらかされる。にっちもさっちも行かない状況で、自然と、意識が二人の話題の中心にスライドする。
今日もリーダー、か……
リーダー担当の織部先生は元高校球児で28歳と若く、瞬間沸騰、というか熱血指導を得意とする。
少しでも訳に詰まろうもんなら否応無しにチョークが飛んでくる。
といっても、抜群のコントロールで当たらない場所に投げてくるのだけど…
本人には当たらない。
しかし、その周りが被害を被る。
机の角に当たった跳ね返りが、どこを向くかわからず、毎度毎度、変なとこで緊張を強いられる少し特殊な授業なのだ。
周りのためにちゃんと訳してこいよ! と。
“ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために”という体育会系特有の美しい連帯責任の精神を体当たりで教えてくれようとしているのだろう。たぶん。
思い出せば憂鬱になる。
逃げていいなら、逃げたい…全力で!
それ程度には、悩ましい存在ではある。
でもこの人たちと違って普通の、ごくごく一般的な学生である私は、学生の本分が“勉強”だってわかってる。
どんなに辛い授業だって、真摯に取り組み、最大限に気配を殺してその時間が過ぎ去ることのみを祈るのだ。
桜木の次って、誰だっけ?
私、どこまで訳した?
数時間後の自分のことで手一杯になっている間に、いつの間にか二人は静かになっていた。小競り合いもない。
ただ、睨み合ってるけど…
でももう、そんな小さなことはこの際、どっちでもいい。
気にしたら、負ける。何かに…
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