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無言の睨み合いが続く中、先にそれを解いたのは理一の方だった。
走る電車の外に視線を移し、わざと大きく息を吐く。どう見ても、どうにか自分の中で折り合いをつけようとしている。
消化不良な感じが少し可哀想だけど…仕方がない。
相手が桜木なんだから、打ち負かすことなんて到底無理な話だ。
桜木は、どうすれば相手を黙らせることができるのか、を知っている。例えこれが理一じゃなくても、同じことをやってのける。
たまに、同い年とは思えないほど敏い瞬間を見せつけられるけど…今もそうだった。理一は明らかに言葉でねじ伏せれ、黙らされた。
私が知らない何か痛いところを突かれて…
凄い、というよりは、やっぱり桜木は怖い。
「しかし…」
流れていく緑一色の外の景色を目で追いながら、理一が、
「早く、肩痛めて引退してくれないかな…」
もう、うんざりといった様子で意味不明なことを言い出す。
理一…さん??
織部先生は高校球児ではなく、ただの高校教師だ。
チョークを投げ、挙句に肩を痛めて教職引退とか、ありえないでしょう?
とか、何のひねりもなく、理一の言葉通りに捉えている私とは対照的に、
「確かに、それで引退してくれたら何も問題なく片がつく、よね?」
片? 肩?
逆に会話を嘘っぽくさせる真面目な顔で理一に同調する桜木。
肩に“片”を掛け、笑いを取ろうとしてるんじゃないの!?
と、ここでは、少しひねりも加えつつ、二人の笑いのタイミングに合わせられるように待ち構えてみたけど、二人ともクスリともしない。
つまりは、そうじゃなく、真面目な話だったと…
例えそこがわかったとしても、全く中身に理解が深まらない。一人、迷走中。
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