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それでも諦めの悪い私は、さっきの会話の中身が知りたくて仕方ない。
謎解きのように読み解くことに必死になっている。もう、ムキになってる。
だから、ホント、無意識に桜木の横顔を見つめていた。視線の先にただ桜木がいた、だけの話なのに、
「穂積?」
私の視線に学園王子が気づいた。さすがだ。
「大丈夫?」
そう聞かれて、あっ、と我にかえる。
「ごめん、ボーとしてた」
別に熱視線を送っていたわけではないけど、変に誤解されると後々、大変だ。
女子の世界を生き抜くのは、なかなか厳しい。南極大陸でシロクマを飼い慣らす程度の気合は必要だ。その前に用心するに越したことはない。つまり、熊に会わないのが一番ということ。
“親友の幼馴染み”という位置から、はみ出してはいけない。
うっかり正面から見て石にされないように、でも、あからさまに逸らすのも失礼なので、桜木のネクタイに視線を落とす。
桜木と話す時に一番困るのが、この視線の置き場所だったりする。
こんなこと本人にバレたら、「じゃあ穂積が慣れるまで毎日見つめ合う練習しようか?」とか要らぬ提案を言い出しかねない。だから気付かれないように最新の注意を払う必要がある。
「あれ?」
突然、桜木が不思議そうに、
「穂積、髪染めた? なんか茶色くない?」
スッとこちらに手を伸ばしてきた。
ヤ……
桜木のこの行動に、深い意味はない。たぶん桜木的には“日常”にあることなんだろう。
ヤダ……
でも私は触れられることに備え、身構える。
爪が食い込み、痕が残るほど、ギュッと手を握りしめてその瞬間を待つ。それでも近づいてくるその手に耐え切れず、目を閉じた。
空気越しに伝わる桜木の手のぬくもりが髪に触れる。唇を噛み締め、息を詰めたところで、
「おい!」
理一が桜木の手をパチンと叩いた。
「桜木、本当にわかってんのか?」
理一の声に恐るおそる目を開けると、こちらに向かってきていた手がピタリと止まっている。
「え?」
きょとんと、桜木は理一を見ている。
「自覚を持て! 簡単に女子に触るなよな!? 妬み嫉み…その後始末は誰がつけんだ?」
「あぁ! そういうこと…ね?ごめん、穂積!」
桜木はすぐに手を引いてくれた。おかげで緊張が解ける。
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