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桜木に気づかれないように、小さく息を吐いて、さらに緊張を外へと逃がす。
新しい空気を循環させるイメージで、意識してゆっくりと呼吸をすると、いつ間にか走り出していた心臓が、少しずつ落ち着いてきた。
いつまで経っても、慣れない…
理一の怒りの関西弁と、コレ。
今になって感じる、爪痕が残る手のひらの痛みこそ、その証拠だ。
重度ではないけど、私は接触恐怖症だ。
特に男子に対して症状が出る。
悪意もない幼少期に、触られるたびにビクビクする私を揶揄う男の子に出会って以来、どうしても男子からの接触が苦手になってしまった。
成長と共に、不意打ちに“触れる”程度は平気にはなったけど、ジワジワと近づいてくる“触れられる”までの時間に、どうしても慣れることが出来ないでいる。
先ほどの桜木の行動が、まさに、最も苦手とする触られ方だった。
このことを理一に話したことはない。
でも理一はいつからかコレに気付いていて、何も言わずに、なんだかんだと理由をつけて、周りに気づかせないように守ってくれている。今みたいに…
「髪? 染めてないよ? 光の加減じゃない?」
何事もなかったかのようにする私に、
「そうだね」
理一に咎められたことを気にする様子もなく、桜木は笑って同意してくれた。ホッと胸をなでおろす。
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