秘密

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結局、理一と桜木の会話に謎の部分を残したまま、私たちを乗せた電車は、学園の最寄駅に時間通りに着いた。 いよいよ、だ。 ホント、今朝もまた“いよいよ”なのだ。 その心理的な衝撃に備えて、理一と二人、大きく深呼吸する。申し合わせたわけではないけど… 潜るための準備のように、肺の中いっぱいに空気を吸い込み、そして、ゆっくりと吐き出す。 その様子を見ていた桜木が、 「ちょっと失礼だよ」 冗談めかして言って、ハハッと笑う。 笑い事じゃないんだけど、桜木… 一人だけ、いつもナゼか余裕。 電車がカッタンと止まり扉が開くと、電車の枠のそのまた向こうも、この満員電車同様、人で埋まっている。 いつも通り、といえば、いつも通りな感じで… ホームに人がいるのは当たり前だけど、この人たちに動く様子はない。 じゃあ、なぜ? それは、もちろん桜木だ。 世にいう、入待ち、だ。(出待ち、でもあるけど…) 私たちより先にホームに降り立った桜木に、 「キャアー!!」 と、歓声が上がる。 声のボリュームだけなら、アイドルのライブのオープニングシーンに匹敵するぐらいだ。 毎朝、毎朝、よくこれだけ大騒ぎしていて苦情がこないもんだ… 駅、さらには近隣施設まで掌握している王子力に関心する。 大きな理一に続いて私も電車から降りる。 理一の前には、降りても続く桜木ワールド。 「桜木くん、おはよう!」 「桜木くん、今日は誰と一緒に帰る?」 「桜木くん、お弁当作ってきたから一緒に食べようよ!」 「桜木くん、今度の日曜さ…」 次から次に話しかけられても、桜木は笑顔を崩さず、全てに対応する。 ある意味、神だ。 アイドルならスタッフ3人で鉄壁のガードとなるところだろうけど、桜木は、ただの学生だ。そんな人、いない。 それなのに365日ケガ人を出すことなく、優雅さも忘れずに移動していく。 桜木を中心に丸く固まった集団が離れていき、理一と二人でそれを見送る。一団と一定の距離が取れたところで、 「行った…」 「行った、ね!」 振り向いた理一と、笑った。 「みんなで仲良くシェアして、楽しいのかな?」 「うん? 桜木?」 「そう!」 バカにしてるわけじゃない。でも、好きな人を誰かと共用して素直に楽しめるんだろうか?とは思う。 「独占できないんだから、仕方ないんだろ?」 最もなことを言う理一。
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