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その通りなんだとは、思う。
そうは思っても、好きな人は、やっぱり自分だけのものでいて欲しい。
それが出来ないなら…
私なら諦めてしまうかもしれない。
電車が発車した後のホームには、数えられるぐらいの人しか残っていない。
突然、二人の間に静かな時間が訪れた。
駅前のバスの走行音も聞きとれるほど、自分が通学途中なことを忘れるぐらいに、ゆったりとした時間が流れる。
「ウタ…」
固い表情で私を覗き込む理一から、改まって、名前が呼ばれる。
「…はい」
釣られて、こちらも妙に姿勢を正して答えてしまう。
「……大丈夫か?」
さっきのこと? …だろうか。
言葉にするまでに、少し躊躇いが見えたところからも、おそらく、さっきの桜木とのことを言っているのだろう。
「大丈夫だよ?」
「…そっか。なら、良かった」
大きく一つ頷く理一に、今度は私が同じ質問をする。
「理一こそ、大丈夫?」
「なにが?」
「忙しかったんでしょ?」
作詞の依頼…
そう続ける前に、
「あぁ! 大丈夫!! 同時進行で片付けた方が、逆に書きやすいから」
凡人には到底想像できないし、ましてや、出来そうもないことを、サラッと言う。
それを鼻にかけていないところがまた、天然というかなんというか…、理一ってホントは凄い人なんだろうか? と疑わずにはいられない。
「ウタって、どんな曲が好きだっけ?」
「ど直球のラブソング!」
「俺が一生、書かなさそうなやつな…」
「書かないんじゃなくて、書けないの間違いじゃなくて?」
「書けない、とでも!? まぁ、それならそれでいいけどさ! そう思ってれば…。とりあえず、今日も元気に山登りだな! 校則を変えてもらう前に、エレベーターかエスカレーター付けてもらわないとな!桜木に」
「…理一、それこそ無理なんじゃない!?」
「そうか~? あいつならやれそうだろ?地位も金も持ってるし。あとは女も…な?」
いやいや、ムリムリ。
女子は全て掻っ攫っていけるけど、いや女子だけじゃなく、ナゼか男子もか…
とにかく、すごく幅広い支持層だけど、その他はまだ、持ってないでしょ?
持ってない…よね?
いや……えっ………
そうとも一概に、言えないか…
王子に自分のモノサシを当てても、そこに収まるはずもない。何本買い足しても、たぶん全体像さえ掴めないだろう。そういうスケールの人だった。
「置いてくぞ!」
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