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シリアスシーンなんてそう長くは続かない私と理一。いつも通り、理一が先頭で追う私の図式で、改札に向かう。
桜木は本当にごっそり女子も男子も連れて行ったようで、改札を出ると、麓はガラガラだった。
「山登り、ね…」
理一の言う“山登り”とは、学園までの通学路のことだ。
駅から百合ヶ丘学園までは長い上り坂が続く。
そこから駅を“麓”、学園を“頂”と呼び、全体を“山登り”と理一が勝手にそう呼んでいるのだ。
3段階からなる坂道は、最初は緩やかで、そして中程度となり、最後はお約束通り、話をしながら登ると酸欠で心臓が飛び出しそうなほどの急な坂になる。
確かに文明の利器、というか、私が知る限り(今のところ)最も偉大な桜木の力(りき)に頼りたくもなる。
そうはいっても、今すぐ、どうにかなる話でもなく…桜木の姿も、もうない。見つけたところで、どうにもできないけど…
さっきの輪に割り込んで、王子に無理な提案をし、目をつけられて、ここを波瀾万丈な人生の始まりにはしたくない。
今日もまた、コツコツと小さな一歩を積み重ねて私はこの坂を上ってゆく。
駅から出て数歩進んだ坂の始めに、段差の低い、薄っぺらい階段がある。
さらに幅も狭い。
今日も誰かが躓いてしまうその階段を上りながら、前を歩く理一の背中を見る。
理一は一段飛ばしで、軽く、上っていく。格好良さ以前に、無駄なエネルギー消費を抑えたエコスタイルだと思う。理一の場合は。
それに対して私は、チマチマと一段ずつ刻む。
上る人のことをイメージして作られていない階段だから、理一のように一段飛ばしても、女子には歩幅が全く合わない。難攻不落の城塞だ。
理一と私との間はどんどん開いていく。
一歩で消化できる階段数が違うのだから、まぁ、当然…
当然なんだけど…
幼稚園の時は身長も変わらなくて、食べる量だって、遊びだって、何だって一緒にできて…大きな差なんてなかったのに…
とか、男子と女子の境目がなかった時代を思い出して、分かりやすく凹む。
成長と共に体格差が生まれてくるのは、仕方がない。ましてそこに追いつきたいわけではない。それでも…
頭ではわかっていても、心がスッキリしない。モヤッとする。
女子の方が精神年齢は上だと聞くけど、知能指数は理一の方が明らかに上で…
さっきの桜木との会話だって、8どころか、話の3割ぐらいでお互いに分かり合っていた。
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