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「あっ…」
ん?
「ウタ、じっとしてろよ」
満員電車の中で、“じっとしてろ”も何もあったもんじゃないんですけど…
来る日も来る日も繰り返される右斜め上の上からの偉そうな命令に、今日も素直に従う。
決して屈しているわけではない。
ただ単に抵抗するスペースがなく、そこに立っているだけ、だから。
「また?」
「ん…きた、かも」
幼稚園から現在、高校2年生まで同じクラスで、さらに出席番号も前後の藤崎理一(ふじさき りいち)が、ブレザーの内ポケットから手のひらサイズのメモ帳を取り出す。
それを開き、挿してあったボールペンを取るまで数秒。
理一が私の右肩を台にして、何やらスラスラとメモ帳に書き込んでいく。
見ての通り…
良くも悪くも、遠慮もなく、気楽な関係だ。
そこに恋を見いだすことなんて、到底できない。
恋って…
もっとドラマチック、でしょ?
身長は180センチを越え、さらに鍛えているわけでもないのに身体が大きく、どちらかというと強面で、全く愛想も振り撒かない理一。
大っぴらにモテるわけではない。
でも「実は私も好き…」とか、一部女子から火がついて、さらにマニアックな人たちも巻き込み、影でワーキャー言われるタイプ、ではある。
チラッと見上げた先で、理一の前髪が私の頬に触れた。
女子と違ってドライヤーを使わないせいか、羨ましいぐらいうるツヤの黒のストレートだ。
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