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理一に勝ちたいわけじゃない。
そうじゃなくて、ただ…
離されていくと、ホントは離れたいの?って疑ったり、知らない理一が増えていくと、知らない事は、まだあるのかな… って不安になる。
自分の上にある小さな雲が、自分の世界を覆う闇のようにどんどん垂れ込めてくるように感じて…怖い。
先に階段を上りきった理一が振り返り、私が来るのを待っている。
何も言わないけど、わかる。
理一は無愛想で意地悪なところもあるけど、基本的には優しいから…
それなのに、私ってば!
見上げた先の理一が自分よりも高い位置にいるせいで、より大きく感じてしまって、反省の途中で、嫌だな、とかまた思っている。
私にも、理一にもどうすることもできないのに…
埋まるはずもないその“差”ー
私ってば、狭い。
そんな、キャパの小さい自分を知られたくなくて、理一の視線から逃げた。
足元に目線を落として、トン、トン、トンと階段を上る音だけに集中していると、
「ウタ…」
名前が呼ばれる。
さっきと一緒。
間、だとか声の覇気だとかでわかる。躊躇っている。出し渋るというよりは、出すこと自体を迷っている方だ。
もしかして…私の変な劣等感に気付いた?
階段を上りきって横に立ち、
「どうしたの? 理一」
負の感情を小さな箱の中にギュウギュウに押し込めて、最後はガムテープでグルグル巻きにして笑顔を作る。
桜木のように、ばら撒いて人寄せできるほどの笑顔ではないけど、どうにか悟られはしないだろう。
理一を見上げた。
でもそこに理一の視線はなく、せっかく作った笑顔も、ヒラヒラと足元に落ちる。
駅を見ている理一は、明らかにいつもと様子が違った。
いつもは鋭く、意志の強そうな目に力がない。迷い、が見える。
理一の視線を辿っていくけど、そこには何もなく、電車も行ってしまった直後だ。ちょうど人の動きも止まっていて、誰もいない。
「ウタ…」
ねぇ、ぐらいで呼びかけられる。
心はここにない。どこか遠くを彷徨っている。
「ウタ、あのさ…」
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