秘密

6/37
前へ
/127ページ
次へ
朝からうちの学園王子でいらっしゃる、桜木健人の無言のプレッシャーに捕まった。 本人に、そんな気はないんだろうけど… 完璧過ぎるその造形を目の前にすると、好きじゃなくても何とも思っていなくても、一様に魅せられる。 心ごと攫われ、動作、思考を奪われて、身体に緊張感だけを残す。 そして何よりこの薄茶色の目が困る。 この目に見つめられると、心を見透かされてそうで怖くなるのだ。 透明度の高さは美しさと冷たさを併せ持つ。だからこそ、そこに触れたいと、その向こうを知りたいと思う人もいるのかもしれないけど、私は怖くて近づけない。 そんな王子様が目の前で、フッと口元に黒い笑みを浮かべた。 今日もまた、良からぬことを思いついたのだろう。 美人とは切っても切れない残念な性格が垣間見えて、逆にホッとする。 「いつも見てるから、穂積の考えてることはわかるよ!」 明らかにボリュームとトーンを王子仕様に切り替えてきた。周りを意識して… そして駄目押しの微笑みも一緒にプレゼントされる。私にとっては、迷惑な贈り物以外の何物でもない。出来れば受け取りたくはない。 朝からキラキラと面倒なほど眩しく、笑みを零す。 わかってて、やってる。ことは分かっている。 予想通り、盗み聞きしていた女子たちの「キャア」という黄色歓声が車内のそこかしこから上がった。 たぶん、“穂積”の部分は自分の苗字に脳内で変換されているのだろう。 しかしこの人は、一体、ナニになりたいんだろう。 ゴールを、ドコに設定しているのだろう? その歓声に満足したのか、更に笑みが深くなる。 近しい人にはわかる、したり顔だ。 さっきの微笑みと砂を吐きそうなほど甘さたっぷりの台詞は、私に対して出したものじゃない。 見られていることをわかっての、あえての、だ。 サービス精神旺盛なのはいつものことなので、構わないデス。 けど…
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加