137人が本棚に入れています
本棚に追加
あれ…?
名前を出してくるなんて初めてかもしれない。
桜木は誰よりも自分の魅せ方を知っている。自分プロデュース能力は、もはや玄人だ。
だから自分を輝かせるために人をダシにすることはあっても、誰か一人にターゲットが絞られるような、素人まがいのやり方はしない。
「桜木、ウタを巻き込むなよ!!」
突如朝から無駄に始まった桜木の胸キュンばら撒きキャンペーンに私を出してきたことを、理一も気付いた。
「そんなに穂積が心配なら、アレやれよ?」
「ウタが心配なんじゃない。そうじゃなくて、どっちにしても、とばっちりを食らうだろ? それが嫌なんだよ。だいたい、そのやり方、脅迫だろ?」
「理一に選ばしてやってるだけだろ?」
「おまえ、ホント…」
言葉に詰まった理一に、
「ん? なに?」
悪びれた様子もなく、どうぞ、続けてみ?と王子様スマイルを返す桜木。
王子と使い勝手の良い参謀の図、というと理一に怒られるかもしれないけど…
でも理一にとって桜木は、格上相手なことに違いない。王子はいつか王になるのだから、それはそっか…
で、いったい、なんの話??
「どういうこと?」
二人の顔を交互に見る。曖昧にしてる部分を教えて欲しいのに、
「穂積は“わかんない”ままでいいんだって話にオチたみたいだね。2曲目はアップテンポの曲だったよな? まぁそんな感じでアップテンポで巻いていこうよ!てことになった、今」
と、桜木にはぐらかされる。一方、理一はムッとした表情で口を閉ざしたままだ。
“なった”ではなく、した、んでしょうが!
理一が何も言わないってことは教えたくないってこと、だよね? じゃあそこはとりあえず、まぁ、いいとして…詞の方!
サラッと見ただけで、わかった風な桜木の発言がちょっと気に入らない。別に、競ってるわけではないけど…
「二曲目はアップテンポなの?」
「まぁそうだけど…、なんで俺が……」
理一は律儀に答えてはくれたものの、さっきの謎の会話をまだまだ引きずっているようで軽く流された。
「仕方ないだろ? 守備範囲外なんだから。この話、二回目だよ? 理一、ホント諦め悪いね~」
「普通はな、反省して、その姿勢を改めてから頼むもんだろ? とりあえず、その無駄なばら撒きをどうにかしろよ! それをするから、だろうが!!」
「残念、これも俺の仕事のうち。“仕事”って言っても理一と違って、俺、無償。ボランティア」
最初のコメントを投稿しよう!