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理一は私と話す時よりも丁寧で明るかった。
二人のじゃれ合うような会話からも、短期間で親密度が上がっているのは確かで…
じわりじわりと、ゆっくりと胸が締め付けられる。
心配した関門も無事突破し、呼び止められることもなかった。前に進むごとに二人の話し声も少しずつ遠くなる。
ホッとしている。でも…
たまに起こる二人の笑い声に、足を止めて、戻りたくなってしまう。
声をかけられたらどうしようと慌てていたのに今は、右斜め後ろから「ウタ」と呼ばれるのを待っている。
理一…
理一…
届くわけない。でも、呼んでいる。
呼ばれたくて…
「ウタ」と呼ばれたくて…
心の中で、理一の声で自分の名前をなぞる。
今朝まで普通にそう呼ばれていたのに、それが奇跡のように遠く感じる。
「ドキドキしましたね…」
テンションが高い後輩くんに曖昧に、
「そうだね…」
と微笑む。ちゃんと笑えていたらいいけど…
「藤崎さんは、“高嶺の花”の穂積先輩といつも一緒だったからキレイ系がタイプかと思ってましたけど…可愛らしい感じの人が好きなんですかね?」
「…そう……なのかな」
私が“高嶺の花”なわけないのに、後輩くんなりの気遣いを見せてくれる。
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