知る

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気を使わせている。 それはわかっても、全然、気持ちが前を向かない。 後輩くんは学園から駅までの山下りの間… 理一が一年生の中で、目立っているだけじゃなく高評価で、さらに人気があることを教えてくれた。 カッコよくて、困っていたら手を貸して、その後のフォローもちゃんとしてくれる先輩だ、と…。桜木といい勝負なぐらい理一に憧れている子は沢山いる、とも言っていた。 幼馴染みとして、単純に嬉しい。 私は、誰よりも近くで、長く、理一を見てきたのだから、自分の大切な人が周りに好かれているのは気持ちが良いし、何より、誇らしい。 なのに… 知られたくなかったと思う自分がいる。 理一の良いところは、私だけ知ってれば、それだけで良かったのに… 人から見聞きしたそんな情報で、先輩は理一のことを好きになったりするのかな? とか… 理一のこと何も知らないくせに、そんな簡単に好きになるのかな? とか… 勝手に想像して、よくも知らない先輩まで嫌いになりそうだ。 自宅に帰るまで、ずっと、そんなことを考えていた。 後輩くんといつ別れたのかも記憶にないほど、理一と先輩のことで頭がいっぱいだった。 いつもならお腹いっぱい晩御飯を食べれば、気持ちも満たされて、理一との喧嘩なんて綺麗さっぱり忘れるのに… 今日は喧嘩にもなっていない喧嘩だ。イライラじゃなくて、どちらかというとモヤモヤ燻る感じで、全く気持ちが晴れない。 同じマンション、同じ屋根の下で、距離的には近くにいる。 でも上辺だけの付き合いの隣人なんかよりも、今はもっと遠いところに理一がいってしまった気がした。
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