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ソファーから重い腰を上げる。
Tシャツにショートパンツと、理一から言わせると色気もない格好のまま、アイスの袋を手に取って、
「いってきます」
と、キッチンに立つママの背中に声をかける。
「マンションの敷地内だからって、気をつけなきゃダメよ」
子供の頃…遡れば幼稚園児の頃から言われ続けているこの見送りの言葉。
ママが警戒してるのは連れ去り、でしょうか?
「まだ7時だし…それに、私、そんな小さい子じゃないよ?」
心配性のママを軽く笑うと、
「小さい子じゃないから余計に心配なんでしょ? だから理一くんもこっちに来てくれてるんじゃないの?」
真面目に怒られた。
「理一も?」
「マンション内でも暗くなってから、ウタをウロウロさせたくないから自分がこっちに来てるのよ。どんだけ大事にされてるんだか! で、それにも気付いてないとは、理一くんも報われないわね」
「そう…なの?」
「そうなの!!」
「…そうなんだ」
日常の一部に埋もれてしまって…
自分では気付けないところを、こうやって切り取って教えられると、きっと、もっと他にもあるんだろうな、と思う。
モヤモヤ、トゲトゲした気持ちも吹き飛ばすほど、心が丸く満たされる。
理一とちゃんと話をしよう。
上手く説明できなくても、理一ならきっとわかってくれて、「アホやな」って笑ってくれるはずだ。
ママの言葉と気遣いに背中を押された。
母って、なんだかんだで偉大。
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