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まぁ、連れてくとかは冗談だろうけど…
「お姉ちゃん…行く必要ない、よね?」
お姉ちゃんの周りは男女関係なく、いつも人で溢れている。
その中には本気でお姉ちゃんのことを思う人もいるはずだ。言い方は悪いけど、十分過ぎるほど粒ぞろいのメンバーなのだから、合コンなんて行かずにその中から選べは良いのに…
「ごめん。本当はね、今日のは合コンじゃなくて、ただの食事会なの! 大学生になったし、“合コン”とか言ってみたくて!」
へへッと照れくさそうにするお姉ちゃんだけど、それはそれで、参加メンバー泣かせな発言だ。きっとそうは思っていない人たちが、ほとんどだと思う。お姉ちゃんなら、あわよくば、を願わない男はいない。
「どこまで行くの?」
「駅前。なんだけどね…。理一に送迎させようと思ったら今、取り込み中みたいでさ!」
お姉ちゃんは玄関を入ってすぐ左手にある理一の部屋の壁に、意味深な視線を投げ、
「桜木レベルの美人って、なかなか見ないけど、ウタは知ってるのかな~?」
後から後から出てきて止まらないニヤつきを隠すように、口元を手で覆う。
美人って、もしかして…
血の気が引く。
思い当たる人は、一人しかいない。
外廊下に面している理一の部屋の窓を見る。
柔らかな灯りの中に、輪郭ははっきりしないけど、確かに二つのシルエットが浮かんでいた。
確かめる意思を明らかに持っていたわけではない。でも視界の端に引っかかった感じで、お姉ちゃんの足元の奥…玄関の靴に視線が落ちた。
そこには男女共通の学園指定の革靴が二足、寄り添うように並んでいた。
一つは理一ので、もう一つは……
大きく打つ鼓動で身も心も、いっぱいになる。
目の前の靴が二重にも三重にも見えるほど、クラクラする。不快でしかない鼓動に包まれ、目の前が揺れた。
「ウタ…?」
そこに、理一が部屋から顔を出す。
こんな壁一枚のとこで話していれば、すぐに気付くだろうけど…
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