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私の顔を見て、理一こそ幽霊に会ったみたいに驚いた表情をする。
来ちゃ…いけなかった?
理一はブレザーを脱いだだけ。まだ制服だった。
着替えを済ませ、一旦リセットして私はここに来たのに、理一はあのまま、あの時のままだ。
こんなことで…
たったのこれだけの小さなことで、可笑しなぐらい理一を遠く感じてしまう。
「姉ちゃん、さっさと行けよ!」
お姉ちゃんを外に追い出すように、自分も玄関の外に出てくる理一。
つまりは、
中には入れない、ということだ。
それに気付かないほど、お姉ちゃんも鈍化ではない。でも敢えてそこには触れずに、
「理一、ちゃんと迎えに来てくれるのよね!?」
NOとは言えないほど、理一を睨みつけて最終確認をする。人質ではなく、言質を取っている。
「行くよ!」
「迎えに来てくれなかったら駅前で叫ぶからね! 理一の恥ずかしいネタ」
「は? 叫ぶな! つーか、そんなネタねぇよ!」
「じゃあ、今ここでお試しにそれを叫ぼうか?」
と、お姉ちゃんがチラッと私を見る。
「…わかったから! 行くから! ちゃんと!!10時でいいんだろ?」
早く行けよ! と、理一はお姉ちゃんの肩を押す。
「やっぱ、9時!」
「えらく早くねぇか!?」
「帰ってきてから、色々と聞きたいことができたの!!」
「は? …んだよ、それ」
「ウタ! 今度は一緒に行こう」
じゃあね、とお姉ちゃんは話を切り上げて、理一のみぞおち辺りを軽く殴った。
私には優しい微笑みを残し、エレベーターホールに消えて行く。
お姉ちゃんの背中が見えなくなったと同時に、
「で?」
後手にドアを閉めながら、理一が真っ直ぐ私に向く。
いつもより距離が近い。たぶんわざと詰めて立つことで、こっちに威圧感を与えようとしている。そんな気がする。
「人が来てるから、手短にお願いしたいんだけど?」
冷たい視線と言葉に、ゴクンと唾を飲み込んだ。
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