秘密

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先ほどの無償だ、ボランティアだ、とかの話は理一の“仕事”に関係する。 藤崎理一はネット上で“REACH”として活動する作詞家だ。 REACHに作詞をしてもらうとプロデビューできるという噂がネット上で広がり、当然、プロを目指す人はそこに賭けたいと思う人もいるわけで… 理一が立ち上げた掲示板を目指してやってくる人が後を絶たない。でも誰もがそこに辿り着けるわけではない。 掲示板にはカギ(パスワード)がある。 つまりそれを知っている人からの紹介でなければ、カギが開けられないようなシステムになっているのだ。 カギさえ開けば、依頼は簡単だ。掲示板に曲を残していくだけ。あとは理一が詞をつけて、またそこに返す。 ここまでなら大して問題も無さそうな話だけど、問題になるのは、条件となる部分だ。 まず大前提として、お互い正体は明かさない、正体を探らない。 そしてCDが売れたらその1割を理一に謝礼として渡さなければならない。 謝礼の受け渡しは、毎回指定される場所に届ける仕組みになっているようだけど… ここが、一番の問題なのだ。 強要しているわけではない。あくまで謝礼、ではある。 けれど、高校生に謝礼というのは、どうなの!? という答えの出なさそうな問題。 相手もまさかREACHが高校生だとは思っていないだろうけど… さらに例えそれをクリアーできたとしても、相応しい金額って、いくらなの? という難題が出てくる。 でもまぁ、それ以前に、 「“法律”って、うちの校則のこと言ってるのか?」 うちの学園は、校則でバイトが禁止されている。 バレたら停学? もしかしたら即退学になるかもしれない。 「あぁ、うん。まぁな…」 車内が筒抜状態なことを思い出したのか、トーンダウンして話を濁す理一に、 「俺にそんな権限ないよ!」 と、ようやく理一の頭から手を引いた桜木が笑う。 「御曹司なら、そんくらいどうにかできるだろ?」 「できる、かもしれない。でも理一はそれ以前の問題だろ?」 桜木がズバリ、問題に切り込んだ。 理一がどれぐらい稼いでいるのかはわからない。教えられていない。少なくとも私は… けど、桜木は知っているのかもしれない。
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