三章 募る想い

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 そういった気持ちを、俺はずいぶん長く忘れていたから。  もっとはっきり言うべきだな。  俺は、恋、ってものを忘れたまま、バーチャルとはいえ恋人を探すグループに参加していた。  だから――俺は気づけなかった。  メールの相手はアバターで、やり取りはSNSの中だけで。  どうしたって関係はバーチャルなんだけれど。  それでも、その向こう側にいるのは、同じ人間で。  恋をしたい、女の子なんだ、ってことを。  俺はまだ――気づけていなかった。  だから、たっぷりと時間を置いて、来た返事。 「お仕事がんばってね。わたしも家事しまーす」  時間が空いた理由も。込められた意味も。いや、メールにきちんと示された情報にさえ気づかず―― 「ありがとう」  そんな短いメールを、返していた。 「そういえば、ダイって既婚だよね?」  その日の雑談は、ヒラのそんな書き込みから始まった。 「そうだよ。ヒラは?」 「あたしはシンママ。ぴちぴちの三十歳」 「そうか。って既婚とかシンママ、シンパパ多いのかな?」 「スルーすんな! ボケたら突っ込め! っていうか、うん、多いよ。自己紹介見てみて」  突っ込め、ってぴちぴちにか? そんなことを要求するとは、ヒラって関西人か?  気になったので、自己紹介のページを見てみる。  確かに、既婚者やバツありが多い。  みんな何かを諦めて、何かに疲れて、バーチャルに癒しを求めているのかもしれないな。  ヒラの自己紹介を見てみる。住みは大阪だった。  そして、その三つ後。メグの自己紹介には――  二十五歳、高知住み。そして――既婚、とあった。  ――今から家事しまーす。  なるほど、そういうことか。  俺は思わず寝室へとつながる廊下へと視線をやる。  もちろん、奥さんも子どもも起きてくる様子はない。  メグも、こんな夜が嫌いなのかな。  何となく、そう思った。
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