プロローグ

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 はじめは、軽い気持ちだったんだ。  毎日は仕事と家の往復で過ぎて行っていたし。  仕事は不景気のせいか、思ったように成果はあげられず。  だというのにサービス残業だけは変わらずに、毎日遅いせいで家族との会話もない。  だから、本当に軽い暇つぶしのつもりだったんだ。 『毎日退屈なあなた。ここで癒しを見つけませんか?』  街で見かけたら怪しいとしか思わない。そんな謳い文句だったし。  ――所詮、バーチャルだし。  軽い以外の気持ちなんて、持ちようもなかった。  ――けれども、そこにいたのは、みんな、暖かい人たちだった。  暖かくて、優しくて、とっても居心地がよかったんだ。  特に彼女の存在は、俺の中で日増しに大きくなっていった。    ――所詮、バーチャルだし。  その言葉は自分にかけた枷であり、ストッパーだった。  けれどもある日、それはかちゃん、と音を立てて外れてしまった。  そう、俺は思いだしてしまった。  恋心ってやつは、止めようがないってことを。  だからいつだって真剣で、ドキドキして、そしてとても幸せな気分になるもんだ、ってことを。  そして、俺はまだ忘れていたんだ。  いつだって真剣で、辛くって、苦しくって、心がバラバラになりそうになるってことを。  それでも――恋心ってやつは、止めようがないってことを。
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