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イベントメンバー発表の日。
その日は突然のクレーム処理に追われ、携帯を見るどころか、昼食を取る暇もなかった。
結局、時計の針が深夜を指す頃の最終電車に飛び乗って、ようやくグルに入れた。
まずはメンバー発表の板を見る。
見事に男女は同数となっていて、ヒラの主催者としての能力の高さがわかる。
いくつかの組み合わせを眺め――そして見つけた。
『ダイ&メグ』
……そっか。
俺は安堵とも何かを諦めたともとれるため息をついた。平日の終電はガラガラで、俺は遠慮なく姿勢を崩す。
皆がヒラにお礼の書き込みをしているのにならって、俺も書きこむ。
「主催者お疲れ。ありがとう」
それから、板の一覧を見る。
――あった。
俺は目当ての板を見つけて、クリックした。
『ダイとメグ』
そっけない名前だが、確かにカップルっぽい。
切り替わった画面では、すでにいくつかの書き込みがある。
「ダイ、これからよろしく」
「……あれ? 忙しいのかな?」
「ダイー(泣)」
書き込みは全部メグだった。
なんというか、待たせて悪いな。
「こんばんは。イベントよろしく」
俺が書きこむ。
「あ、ダイ! お帰り! こちらこそよろしくね」
返事は速かった。俺とヒラが盛り上がっている時並みに。
俺はすっかり夕食を取る気も失せていて、すぐに返事をした。
「ごめんね。ちょっと残業だった」
「こんな時間まで? 大変だね。お疲れ様」
「ありがとう。腹減ったけど、ご飯食べる気もしないやー」
「ええっ。まだ食べてないの? じゃあ、わたしがつくってあげる」
「あはは。ありがとう」
何て甘酸っぱい会話だ。
けれど、嫌じゃない。
こうやって誰か一人に、特別に想ってもらえるように見える、ってのは心地いい。
恋グルがある意味が、わかる気がした。
けれどもそれは、あくまでもバーチャルな話だ。
ついこないだまでは意識しなくても当たり前だったことを、今俺は自分に言い聞かせる。
「本当に作ってあげられたらいいのに」
なぜなら、メグの返事は、バーチャルと割り切るにはあまりにも、気持ちがこもっている気がしたから。
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