四章 イベント

4/5
前へ
/41ページ
次へ
 イベントメンバー発表の日。  その日は突然のクレーム処理に追われ、携帯を見るどころか、昼食を取る暇もなかった。  結局、時計の針が深夜を指す頃の最終電車に飛び乗って、ようやくグルに入れた。  まずはメンバー発表の板を見る。  見事に男女は同数となっていて、ヒラの主催者としての能力の高さがわかる。  いくつかの組み合わせを眺め――そして見つけた。 『ダイ&メグ』  ……そっか。  俺は安堵とも何かを諦めたともとれるため息をついた。平日の終電はガラガラで、俺は遠慮なく姿勢を崩す。  皆がヒラにお礼の書き込みをしているのにならって、俺も書きこむ。 「主催者お疲れ。ありがとう」  それから、板の一覧を見る。  ――あった。  俺は目当ての板を見つけて、クリックした。 『ダイとメグ』  そっけない名前だが、確かにカップルっぽい。  切り替わった画面では、すでにいくつかの書き込みがある。 「ダイ、これからよろしく」 「……あれ? 忙しいのかな?」 「ダイー(泣)」  書き込みは全部メグだった。  なんというか、待たせて悪いな。 「こんばんは。イベントよろしく」  俺が書きこむ。 「あ、ダイ! お帰り! こちらこそよろしくね」  返事は速かった。俺とヒラが盛り上がっている時並みに。  俺はすっかり夕食を取る気も失せていて、すぐに返事をした。 「ごめんね。ちょっと残業だった」 「こんな時間まで? 大変だね。お疲れ様」 「ありがとう。腹減ったけど、ご飯食べる気もしないやー」 「ええっ。まだ食べてないの? じゃあ、わたしがつくってあげる」 「あはは。ありがとう」  何て甘酸っぱい会話だ。  けれど、嫌じゃない。  こうやって誰か一人に、特別に想ってもらえるように見える、ってのは心地いい。  恋グルがある意味が、わかる気がした。  けれどもそれは、あくまでもバーチャルな話だ。  ついこないだまでは意識しなくても当たり前だったことを、今俺は自分に言い聞かせる。 「本当に作ってあげられたらいいのに」  なぜなら、メグの返事は、バーチャルと割り切るにはあまりにも、気持ちがこもっている気がしたから。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加