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疑似カップルイベントは、一週間。その間に俺とメグは、たくさんの会話をした。
「へえ。そうなんだ」
「そうなの。もうすごくビックリして! でね……」
お世辞にも上手いとはいえない俺の受け答えにも、不満を言うこともなく、メグは次々に話題を変えていく。
時折、ダイは? と質問が来て、俺は答える。
メグは嬉しそうに俺の答えを聞いて、わたしはね、と返してくる。
「ただいまー」
「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともわたしにする?」
「寝る」
「ひどーーーーーーい!」
疑似カップルということで、時々そういう会話をしたりもした。
けれど、一番印象に残ったのは――
「旦那はもちろん大事だよ。でもねー、何て言えばいいのかな……ドキドキはしたいの」
どこからそんな話題になったかは覚えていない。
ただ、俺がどう返したかは覚えている。
「……わかるよ」
「わかるの?」
「わかるよ。俺も同じだから」
それを書き込んでから、自覚する。
――そうか、俺、ドキドキしたいんだ。
先輩でもなく、部下でもなく――父親でもなく。
ただ一人の男として。
まだ、それだけになりたくないんだ。
俺、っていう存在で、いたいんだ。
俺はだから、ここにいるんだ。
バーチャルでも構わない。俺を俺として見てくれる人。
俺を必要としてくれる人。
ドラマの主人公じゃない。相手の気持ちにまったく気づかないほど、鈍くはない。
ただ、俺自身の気持ちを理解していなかっただけなんだ。
差し込まれた鍵が、くるりと回る。
かちゃん、と音を立てて、何かが外れた。
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