五章 心の箱

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「わたしは、ダイが好き」  ヒラの突然のメールに、俺は思わず胸を押さえた。  どくんどくん、と心臓は常になく早い鼓動を伝えてくる。  喉が、カラカラになる。乾きからくる不快さを消そうとして、口を開き、そこでようやく俺は、自分が呼吸を忘れていたことに気づいた。 「俺が?」  おうむ返しに問いかける。  ヒラはいつものように、早い返信をしてきた。 「うん。あたしは、ダイが好き。すごく好き。どうしようもないくらい好き」  堤防が決壊したように、言葉が溢れてくる。 「グルなんだから、誰かと絡むのが当たり前なのに、あたし以外の女の子と楽しそうにしていると、もやもやする。グル主で、自分で企画したのに、イベントを後悔してる。板を見ていると、嫉妬しちゃう」  ヒラの、ずっと溜め込んできた気持ち。それが、痛いほどに伝わってくる。 「もちろん、絡むな、なんて言えないし、言わない。でも、あたしを一番に見て欲しい。 あたしだけを、特別に大事に想って欲しい」  真っ直ぐなヒラの想いを受け止めて――俺は、自分が返す言葉を持っていないことに気づいた。  コイゴコロ。俺はいまやそれを自覚している。  ただ、俺は、誰に対してそれを持っているのか?  俺は自問する。そして自答できない。  だが、できないでは済まされない。  探さなければならない。  見つけなければならない。  俺の、向かう先を。その相手を。 「少し、時間をくれるか?」  俺はようやくそれだけを返した。 「うん。もちろん。突然ごめんね。ダイならそう言うと思った。そう言ってくれる、って思ってた」  ヒラからは頷きの、そしてよくわからない返事が来た。 「そういう、生真面目なところも、好き。おやすみなさい」  もう一度気持ちを伝えてくれて。それから俺に返事を許さない末尾で、ヒラのメールは終わっていた。  ――ありがとう。  心の中でだけ呟いて、俺は携帯を閉じた。
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