五章 心の箱

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 翌日から、俺はグループに書き込みするのをやめた。  それよりも、自分の気持ちを探ることが必要だ。 「ダイおはよう」 「ダイ、忙しいのかな?」 「ダイ、お仕事お疲れ様」 「ダイ、お休みなさい」 「ダイ、おはよう」 「ダイ、忙しいの? お昼はちゃんと食べてる?」 「ダイー(泣)」 「ダイ、待ってたけど、落ちるね。時間あるとき、来てほしいな」  俺とメグの板は、メグの言葉だけで上がっていく。  まるで、更新が止まって、下に落ちていくのを拒否するように、メグは書き込みをしてくれる。  俺に語りかけて、心配してくれる。  ――それでも、俺は書きこむ気にどうしても、なれなかった。 「ダイ。最近何でグルこないの?」  とうとう、メールも来た。 「ごめん、ちょっとあって」  それでも俺は、それしか返せなかった。  考えろ。考えろ――真剣に、考えろ。  俺の知らない、俺の本音を見つけろ。  焦るように、そんな事を考えて、ふと、夜道で足を止める。  見上げれば、空には丸い、月。  闇の中で、しっかりと主張するそれに、思わず笑みがこぼれる。  ああ、こんなときでも、俺ってまだ笑えるんだな。  自分のまた違う一面を発見して、少し気が軽くなる。  そして、今度は違うことを思う。  暇つぶしに、楽しそうだから、ってはじめたのに、どうしてこんなに悩むんだろうな。  どうして、こんなに、切ないんだろうな。  自問する。自答できる。 「それが、恋だからさ。たとえ、バーチャルでもな」  恋って、楽しいだけじゃないんだよな。  語りかけた月は、もちろん返事をしてはくれなかった。
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