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イベント最終日。
俺はいつもの通り、会社に行き、しかし仕事は中々進まなかった。
原因はわかっている。
俺が、答えを見つけられていないからだ。
ヒラからの気持ちに、答える言葉がない。
恋心。
俺のそれは、どこへ向かいたいのか?
考える。
初めに、この退屈なだけの毎日を吹き飛ばしてくれたのは、ヒラの誘いだった。
彼女がつくる世界は、俺が忘れていたもの、眼を逸らしていたものを教えてくれた。
彼女と話していると、楽しい。
若い頃日常を忘れて、彼女と飽きもせず喋っていたことを思い出す。
あの頃は何もかもが光って見えて。恋ってこんなにも幸せなもんだ、ってことを無邪気に信じていた。
ヒラと付き合えば、その頃のキラキラしたものが取り戻せるのかもしれない。
それはきっと、すごく幸せなこと。
どうせバーチャルなんだ。幸せを追うことは何も間違っていない。
けれど――と、それを否定する言葉が出てくる。
ヒラが俺に見せてくれた気持ちは、強過ぎる。
俺は既婚者だ。だから、この恋はバーチャルだけ。
絶対にそれは破れない。
それに対して、ヒラはシンママだ。言ってみれば今度こそ本当の幸せを掴まなければいけない人間だ。
それはつまり、彼女がするべきはバーチャルなんかじゃない。本物の恋愛だ。
ここで、彼女を受け入れていいのか?
俺の身勝手なエゴに付き合わせて、彼女のコイゴコロを、バーチャルで満たしてしまって、いいのか?
その思考は、他ならない打算。計算。
自分が誰を好きか、ってことではなく。
バーチャルって言葉を逃げ道に、自分にとって、都合がいいかどうかを考える。
それは――恋なのか?
違う。絶対に、違う。
答えが出ないまま――夜を迎える。
イベントはもうすぐ、終わる。
メグとの疑似カップルは、終わる。
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