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夏の終わり、とはいっても残暑がまだ厳しい日。つまりは、他に言うべきこともないほど普通の日。俺は後輩とオフィスで二人、来週のプレゼンに向けて資料を作っていた。
「速水さん。これでどうですか?」
時計の針が夜九時を回った頃、後輩が資料を持ってきた。ざっと読んで、問題がないことを確認する。
「オッケーだ」
「ありがとうございます! じゃ、お先に失礼します!」
後輩は嬉しそうに笑みを浮かべると、一礼と共に挨拶を残して、慌ただしくオフィスを後にしていく。そういや今日はデートだって言ってたな。きっと大遅刻だ。怒られるんだろう。
――けれど、怒られるってのはいいことなんだぜ。
思わず自嘲めいたことが浮かび、俺は苦笑した。
気にしてくれる人のいない場所で、俺はぬるくなったインスタントコーヒーを口に含む。
口の中に鈍く広がる苦みが、俺の意識を現実へと引き戻してくれた。
さて、もう少し頑張るか。
俺は後輩の資料を一旦脇にどけて「速水大樹(はやみたいじゅ)様」と俺の名前が打ってある封筒を開けた。
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