一章 招待メール

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 会社から電車で一時間の距離にある家についたのは、日付がそろそろ変わろうとしていた頃だった。  静かに鍵を回してドアを開ける。さして広くもない、3LDKのマンションは既に明かりが落ちていた。                                 いつも通り、俺は自分で誰もいないリビングの電気をつけ、着替えてからキッチンに立つ。妻が作っておいてくれた料理を温め直して、テーブルに運ぶ。そのまま椅子に座り、さして興味のないテレビ番組を見ながら、遅い夕食を開始する。 そうして、いつもと変わらない一日をほとんど終えようとした頃――         テーブルの端に置いた携帯電話が、メールの着信を知らせてきた。            手に取り、確認するとそこにあったのは一通のお知らせメール。  先日登録はしたものの、プロフィールだけ書いて放置していた、コミュニティサイト『NIO(にお)』の自分宛てにメールが来たことを知らせるものだった。  食事を終えて、流しに食器を置いてから、携帯電話を再び手に取る。  NIOに接続して、メッセージを確認する。  そこにあったのは、ヒラという、知らないハンドルネームからの一通のメールだった。 「はじめまして。よかったら入りませんか? 『LOVE広場』」  用件とリンクのみの簡単なメール。普通なら無視してもおかしくないそれを、何故か俺は無視しなかった。  わずかの躊躇の後、リンクをクリックする。  その先にあったのは、『LOVE広場』という名前のグループ。  後で知ったのだが、いわゆる『恋グル』というやつだった。  『LOVE広場』の説明は、簡潔だった。 「退屈な日常にうんざりしているあなた。  ここで楽しく過ごしませんか? 男女ともメンバー募集中です。  忘れかけていた恋心、掴んでください。  なお、NIO規約に反することは禁止です。  ただ今カップル三組です。」  ――忘れかけていた、恋心、ねえ。  そんなもの、それこそとっくに忘れたさ。  俺が抱いた感想は、そんな程度だった。  ただ、裏返せばそれは、興味に他ならない。  それを自覚していたかどうか。ともかく俺は、ヒラという女性に返信した。
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