duel standby─在りし日の

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「やだやだやだ! 行っちゃやだよ、りゅうくん!」 幼い少女が、自分より随分と背丈の高い少年の腕にしがみ付いて喚き泣く。 同じような想いを抱きつつも、少年は困った笑みを浮かべる。 「ごめんね。本当はオレもここに残りたいんだけど……姉さんやおじさんを困らせちゃ悪いから……」 諭され、少女の掴んでいる力が緩む。 理解はしているが納得ができておらず、しかめながら涙を零す。 少年はそんな少女を見て、肩に掛けていた鞄を開けてある物を取り出す。 「これを受け取ってくれる?」 僅かに顔を上げて、少年が差し出した物を確認した少女は、目を見開いた表情になって顔に一気に上げて少年の顔を見る。 「どうして? これ、りゅうくんのお気に入りのカードなのに……!」 「だからだよ」 少女の手を取って、カードを握らせた少年は僅かに笑みを浮かべる。 しかしどことなくその笑みには、苦みが含まれているようにも見えた。 「オレは必ず戻ってくる。だから約束の証として、それまで預かっておいて欲しい」 「……ほんとに、戻ってきてくれる?」 少女の不安の眼差しに、少年は頷いて答える。 「わかった。りゅうくんが帰ってきてくれるまで、大事にしてるっ!」 そう約束してくれた少女の顔は泣き腫らしてはいるものの、ようやく笑ったのだった。
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