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「ははっ、そっかそっか。そりゃ悪かった」
笑いながら謝罪をし、更に言葉を続ける。
「じゃあお詫びとして、一つお店を紹介しようか」
「お店、ですか?」
首を傾げる美里に、青年は取り出してタップしたスマホを見せてあげる。
「人気の雑貨屋が夕希原でもオープンしたんだ。『アムール』って言うんだけどな」
その店名を聞いた美里の目の色が変わった。
「『アムール』!? こっちでもお店出してたんですか!」
「ああ。この通りを駅に向かって進んで、4つ目の信号を曲がって10分程歩けば見えると思うぞ」
美里の様子を見るに、どうやら『アムール』は女性には知名度の高い店のようだ。
そういった事情に疎い隆侍は一歩引いて、話を聞くだけに努める。
道程を聞き終えた美里はお礼を言い、青年は手を振って駅とは逆方向の方角へ立ち去って行った。
そこで早速、隆侍が美里に話しかける。
「まだ持っててくれたんだ。《ブルーダイナソー》」
「当たり前です。隆侍さんから預かっているカードなんですから」
《ルナ・ブルーダイナソー》を大事に両手で持っている美里は、そう言い終えた後にそれを隆侍の方にそっと伸ばした。
「昨日は渡しそびれてしまいましたが、お返しします」
「………………」
差し出された《ルナ・ブルーダイナソー》を眺め、隆侍は受け取れずに逡巡してしまう。
《ルナ・ブルーダイナソー》は隆侍のお気に入りのカードではあるが、
恐らく美里に渡していなければ他のカードたちと同様、完全に手放してしまっていただろう。
果たしてそれを受け取る権利が自分にはあるのかと思ってしまったのだ。
しかし今一度、《ルナ・ブルーダイナソー》を眺めた隆侍は腹をくくった。
「……ああ。大切に扱ってくれて、ありがとうな」
そのカードを手に取り、お礼を口にする。
美里はニコニコと笑みを浮かべながら、「どう致しまして」と返事をするのだった。
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