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カードの返却が終わり、美里が切り替えるように別の話題を口にし始めた。
「あの、隆侍さん。もう一軒、寄らせていただいてもいいですか?」
十中八九、先ほど言っていた『アムール』という店のことだろうと隆侍は分かっていたので、即座に言ってあげる。
「ああ、もちろんいいよ」
「ありがとうございます! 『アムール』は知る人ぞ知る隠れた人気店で、是非覗いてみたかったんです」
軽く頭を下げ、美里は駅へと向かう方向へ歩き始める。
隆侍もそれに倣い、横に並んだ。
………………。
指定された交差点で右折し、二人並んで道なりに進んでいく。
騒がしかった商店街は通り過ぎ、通行人はまばらになっていた。
隆侍と美里は無言で歩いていた。
そんな時、隆侍は何か違和感を覚え始めた。
(ん? 何だかビリビリするような空気の震えみたいなものが……)
心がざわつき、自分でも理解できない緊張感が湧き出てくる。
そして何故かそれにデジャビュを感じてしまう隆侍。
「どうかしましたか?」
美里が様子の変わった隆侍に、疑問の言葉をかけた──
その時だった。
稲妻が降り注いだ時のように、視界全てが一瞬で青白い光で満たされる。
あまりにも強い光に、反射的に目を瞑る隆侍。
目を開くと、二人の存在する世界そのものが様変わりしてしまっていた。
隆侍と美里、周りの通行人数名はそのままだが、
コンクリートの地面、住宅やビル、電信柱などを含む人物以外の全てが色彩を失っており、青を基調とするモノクロへと変わっていた。
「な、何だ!?」
車道を挟んだ向こうの歩道を歩いていたスーツ姿の中年サラリーマンが、現実離れしたこの現象に驚きの声を上げる。
とはいえ、声は出さなかったが隆侍や美里も同様の思いである。
一体、どんな現象が発生してしまったのか。
それはこの場にいる誰も知り得なかった。
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