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隆侍たちが正気に戻ったのは、他の通行人による悲鳴がきっかけだった。
目の前で人が殺されてしまう場面を見てしまったので無理はないが、それは巨大な殺人鬼に気付かれるだけの愚行に過ぎない。
現に美里はつられて悲鳴を出さないように、自らの口を手で固く塞いでいた。
当然、悲鳴を出した通行人は巨大バイクロボにバレてしまい、追いかけられてしまう。
そのスピード差は火を見るよりも明らかであった。
「……美里ちゃん、逃げるよ」
「……は、はい」
二人は小声で示しあい、持っていた荷物を全て捨てて近くの路地へと逃げ込んだ。
「どうして、《轟く侵略レッドゾーン》が、人を襲ってたんですか……っ!?」
隆侍に引っ張られるようにして路地を駆け抜けながら、美里は疑問を口にする。
「《轟く侵略レッドゾーン》……?」
「あの巨大なクリーチャーは、一年前に出ましたデュエマのカードに、そっくりなんですっ」
美里があの巨大バイクロボの名前を知っていたことに驚いたが、比較的新しいデュエマのカードなら知らなくても当然だと隆侍は納得できた。
しかし当然、新たな疑問が沸き出てくる。
「デュエマのクリーチャーが現実に現れたってことなのか……。一体どうやって……」
理屈は分からない。
しかし確実に判明していることがある、と隆侍は考える。
(俺たち人間じゃ、根本的なポテンシャルが違うクリーチャーに敵うわけがない……っ!)
二人の目の前で、実際に殺された人間がいる。
それはあまりにもアッサリと、瞬間的に行われた。
《轟く侵略レッドゾーン》に捕まった瞬間に、死は確定する。
自分や美里がそうなっている未来が一瞬だけ脳内によぎり、隆侍はそれを必死に追い払う。
「……っ! とにかく、この変な青い空間から抜け出そう。それがあいつの追ってこれる範囲の限界かもしれない」
「はいっ!」
二人は握り合っている手に込める力を強くしながら、路地内を駆け抜けていった。
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