28人が本棚に入れています
本棚に追加
/438ページ
数分走り続け、二人は青に染まった空間の終わりに辿り着くことが出来た。
走り慣れている隆侍は一切息を乱していないが、運動があまり得意ではない美里は苦しそうに荒い呼吸を繰り返す。
「……嘘、だろ」
しかし脱出への希望は絶望へと変わってしまった。
青い空間の終わりには垂直に反りたつクロス模様の入った壁が天高くそびえ立っているからだ。
壁は途切れることなく左右に伸び続けている。
隆侍は地面に落ちていた小石を拾い上げ、それを壁に向かって投げつける。
勢いよく壁に当たったそれは、衝突音すら立てずに勢いを急速に失い、ポトリと地面に落ちた。
(威力が完全に殺されてる……。原理は全く不明だけど、力技で突破するのは無理みたいだな……)
SFなどでありそうな触れたら電撃を浴びたり、燃やされたりといったトラップ要素はないようだが、突破できないのでは安心できない。
事実、背後で呼吸を必死に整えながら様子を眺めていた美里は絶望の表情を浮かべていた。
「逃げ……られないんですね……。私、たちも……あの人みたいに……」
そう語る美里の脳裏には、自分たちの前で《轟く侵略レッドゾーン》に握り潰されて絶命したサラリーマンの男の姿が再生されている。
そしてそれが次第に自分へと変わっていき、身体が締め付けられる幻痛を感じてしまう。
しかし同じような絶望感を味わいつつも、隆侍は美里を奮い立たせようとする。
「まだ……まだ諦めちゃ駄目だ、美里ちゃんっ! 青いエリアを囲っているこの壁だって、どこかに欠けている部分があるかもしれないんだ!」
そう叫んだ直後、遠くで僅かな地響きが聞こえた。
《轟く侵略レッドゾーン》が迫ってきている。
「走るんだ、美里ちゃん!」
「は、はい……っ!」
再び隆侍に手を握られ、走り出した美里の頬から一粒の汗が落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!