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「りゅ、隆侍……さん……あああっ!」
美里が隆侍の名前を呟いた直後に悲鳴を上げ始めた。
《轟く侵略レッドゾーン》の握り拳の締め付けが強くなったのだ。
「くそっ、離しやがれ!」
全身を用いた全力のタックルで《轟く侵略レッドゾーン》の脚に衝撃を与えるが、倒れるどころかよろめく気配すらない。
その間にも、美里が苦しそうに悲鳴を上げ続ける。
「あああ……っ! りゅ……しさん、逃げ……て……ッ!」
全身が締め上げられていく苦しさと痛みに耐えつつ、美里が隆侍にそう告げる。
自分が囮になっている内なら、逃げられるという意味だと隆侍は理解した。
理解したが、従う気は毛頭ないようだ。
「馬鹿なことは言わないでくれ! 俺が美里ちゃんを置いて逃げれるわけないだろ!」
「ダメ……です……っ! 隆侍さんは……生きてっ、あああ!」
既に美里は自分が生き延びることを諦めている。
しかし隆侍は彼女の死が逃れられなくなってしまった状況を認めない。
(嫌だ……。絶対に美里ちゃんを殺させたくない……っ、そしたら俺は『また』、誰かを犠牲に……)
心の中の悲痛な叫びに、隆侍自身が驚く。
(『また』……? また、って何だ? 今までに俺がこんな状況に巻き込まれたことなんて──)
直後、かち割られるかのような強烈な頭痛と共に、隆侍の脳裏に走馬灯のように断片的な光景が映し出される。
「あぐっ!」
目の前で誰かが倒れ、もう一人が自分に背中を向けたまま胸ポケットから何かを取り出していた。
記憶の景色は光が強すぎて、それらが誰なのかはハッキリ分からない。
しかし、一つだけ分かったことがある。
それは胸ポケットから何かを取り出した人物が言い放った台詞だった。
『──コロッセオ、起動!』
一瞬だったフラッシュバックは終わり、《轟く侵略レッドゾーン》に美里が捕らわれた現実に戻る。
多少鈍くはなっているが、頭痛は続いている。
そのせいで隆侍はフラッシュバックした記憶の考察も行えない。
「ぐう……っ!」
結果、隆侍は何も考えられず、記憶にあった言葉だけを無意識に叫んでいた。
「コロ……ッセオ、起動……っ!」
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