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鉄で出来た道の上を幾つも連なった筐体が高速で走って抜ける。
だがそれはブレーキによりスピードを落とし、中にいる人々が慣性に逆らえずに進行方向へと身体を傾ける。
それは座席でも同様であり、隣の人間に体重を思い切り乗せてしまう。
座席の端に居た一人のサラリーマンが自分に体重を掛けてきた隣の人物を睨もうとする。
しかし隣の人物の顔を見た瞬間、その強気は一瞬で霧散した。
完全に停止してから1秒程経つと、筐体の両サイドに複数存在する横スライドのドアが自動的に開いていく。
「す、すみません!」
オマケに謝罪の言葉を口にした上で、そそくさとドアから出て行った。
続いて他の人々も筐体から抜け出して行く。
「ほら、起きろよ姉さん。着いたから」
どんどん床が見えるようになっていく筐体の中、先程謝罪されたワイシャツ姿の青年が隣で肩に頭を乗せているスーツの女性を肘で小突く。
生まれつきの鋭い目付きが常に怒っているような表情に見せてしまう彼だが、その女性に掛ける声は優しかった。
夢の世界へと旅立っていた彼女だったが、眠り自体は浅くすぐに意識は現実へと戻ってきた。
「んー……降りまーす」
青年に姉さんと呼ばれた女性は、膝の上に載せていたバッグを肩に掛けるとユラユラと立ち上がった。
「早く歩いてくれよ」
青年の方は歩行ペースの遅い姉の背中をポンポンと叩きながら、共に筐体から降りたのだった。
彼の視線の上には白い直方体の板があり、そこには『夕希原駅』と書かれている。
それを眺めた青年は、皆に怖がられてしまう細い目付きを少し緩めて呟いた。
「久しぶりに戻って来れたな……。夕希原」
………………。
関東圏にある県に存在する街、夕希原。
直通ではないが乗り換えすれば、都心まであまり時間のかからない近さもあり、程良く発達している街である。
その為か駅には出口が5つ程あり、初見は迷う人も出る程度には広い。
二人は日曜故に溢れる人ごみを掻き分けて、北東口から外へと出た。
「おーい、隆侍! 愛守さん!」
するとようやくまばらになった人ごみの奥に、手を振る別の青年の姿が二人の目に入った。
隆侍と呼ばれた青年が手を振る青年の姿を見かけた瞬間、口元を緩ませて駆け寄って行った。
「行栖!」
「おう、待ってたぜ!」
行栖は駆け寄る隆侍の突き出した手に喜んでハイタッチをした。
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