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夕希原学園の校庭では、数十名の学生が球技を行っていた。
普段の体育の授業においては、講師が監督して決められた球技を行うのだが、現在校庭にいるのは全て三年生。
受験勉強で溜まった鬱憤を晴らさせてくれる学校側からの配慮なのか、この授業では各々が好きな球技を自由にできるようになっている。
中には球技すら行わず、ただ談笑しているだけの生徒もいるが、講師たちはそれを見逃している。
「へい、パスパス!」
そんな中、サッカーコートで一人の男子生徒が走りながら、ボールの受け渡しを促す声を上げる。
汗を大量に散らしながら走る彼は、既に敵ゴールの近くにいる。
「ああ! 頼むぜ、慧!」
ボールをドリブルしていた味方の男子生徒が、名前を呼びつつパスを回してくる。
素人故か、そのパスコースは少し相手の後ろ側へとズレてしまっていたが、慧と呼ばれた男子生徒は、走るスピードを緩めることで対応し、無事にボールの足で受け取る。
「させるか! 通さないぞ、城川」
走るスピードを緩めた影響で、敵側の男子生徒が間に合い、二名ほどが城川慧の前に立ち塞がる。
更に後ろにはキーパーもおり、相手側の防御は堅い。
「……フッ」
『なっ!』
しかし、慧は一切足を止めることなく、細やかなドリブルを駆使してあっという間に二人を突破する。
コート外で観戦している多数の女子が、「きゃーっ!」と声を上げる。
「行くぜ!」
そして慧はキーパーの前で、勢いを乗せたシュートを蹴り放つ。
キーパーは右へと飛んだが、読み当てていた慧は放ったボールは左側。
ボールはそのままゴールネットへと吸い込まれるように飛んで行った。
審判を務めていた生徒が、持っていた笛を全力で吹き鳴らし、ゴールを知らせる。
「さすがだぜ、慧!」
パスをくれた味方が、慧に勢いよく肩を組んでくる。
前につんのめりそうになりつつも、態勢を持ち直した慧は笑ってサムズアップをしてやった。
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