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跳ねの多いくせっ毛の黒髪と、縁のない眼鏡をかけた「行栖」と呼ばれた青年。
高並行栖。隆侍とは幼い頃からの仲であり、今現在でも交友が深い。
お互いにハッキリと明言したことはないが、「親友」といって差し支えはない。
「出迎えしてくれて、ありがとう行栖くん」
そんな二人の元に遅れて愛守が追いつき、行栖にお礼を言う。
隆侍と愛守が夕希原に戻ってきたのは二、三年ぶりなので、彼と会うのも二、三年ぶりだ。
「お礼なんていいですよ。長い付き合いなんすから」
「そだね」
行栖は申し訳なさそうにしながら言うが、愛守は笑顔で答えた。
二人とも、三年前と比べると随分と他人行儀になってしまったなと隆侍は感じていた。
「ま、ここで話するのもなんですし、行きましょう」
愛守に向けて言いつつ踵を返し、行栖は歩き出す。
更に隆侍の肩を叩き、快活に歯を出して笑った。
「ああ」
隆侍もそれに答え、並んで歩きだした。
………………。
「お、案外ウチと近いじゃん」
到着した場所を見て、真っ先に言葉を発したのは行栖だ。
目の前にあるのは2階建てのアパートだ。
石の塀の表札には『夕暮荘』と書かれている。
壁には少しとはいえ蔦が張っており、それなりの年季があることを示している。
「外はちょっとボロいけど、中は案外綺麗だから安心してね隆侍」
「ああ」
少し不安に思っていた室内のことを言われ、安心する隆侍。
既に社会人として働いている姉の愛守に代わり、家事は隆侍の担当なので室内環境が気になっていたのだ。
「じゃ、隆侍は行栖くんと一緒に部屋に上がってて。あたしは大家さんに挨拶してくるから。あ、205号室だよ」
「ん、分かった」
階段を上がらずに一階の通路を歩いて行く愛守の言葉を了承し、隆侍は行栖と共に階段を上がって行った。
隆侍は電車内でもあったように、自分の目付きが人に恐れられるものだと分かっている。
なので姉が一人で大家の元へ向かったことには、特に何も言わなかった。
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