第1章

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 その神は万能であり、偉大な存在であった。  人々が空腹に苦しんでいれば、我が身をもぎ取り彼らに食べ物を与えた。  雨が降れば、風が吹けば、我が身をていして彼らを守った。  冬の寒さには服を与えることで凌がせた。無論、我が身の一部で出来た服だ。  人々は神に感謝をした。いつ、何時も自分達を助けてくれる神に。  神は人々に見返りを求めなかった。人々に与えることこそ、自分の使命だと感じていたから。  神は何でも知っていた。遙か昔のこと、遠い未来のこと。人の人智などとても及ばぬことまで。  だからこそ、神は知っていた。  自分が、いつ、死ぬのかさえも。  神はそのことを口にしなかった。もし、それを口にすれば人々は不安に陥るからだ。不安は不和を生み出し、この保たれた平和を瓦解させかねない。それは、あまりに不幸なことであるから。自分を慕うが故に、不和が生まれるなど。  しかし、神が死ぬ運命にあることは変えようのないこと。どんなに、運命に抗おうとしても、定めは変えられない。  神は口惜しかった。もし、このまま何もせず、自分が死ねは人々はどうなってしまうのか、それを考えると。  きっと、人々は嘆き、悲しむだろう。神の死に怒り狂うことだろう。  そして、何よりも気がかりなことは、神という拠り所を無くした人々が生きていけるかどうか。神が失われた世界で人々が、どのように生きていくのか。  神は万能であっても、自分の死後までは見通すことはできない。そこが、どのような世界であるのかを。  せめて、少しでも不幸を和らげることができるのならば。
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