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私の目の中で魚が泳いでるけれど、近すぎるから
黒い魚影でしかなくって、本当の色も形も判らない。
メダカにもマグロにも見えるし、影絵か幻燈かも。
右目を回遊してるだけで、左目には泳いでこない。
目で追うと、水槽か海中に半分沈んだ気がして。
そっかぁ、あの時……。誰かがいたんだ。
あの日は、ようやく美術館へ行けるって思って。
けれども、楽しみにしていた「バロック芸術展」は
期間が一日過ぎていて、見逃してしまった。
私は美術に疎いし、レンブラントやルーベンスの
名前くらいは判っても、作品は頭に印象が無い。
多分、興味が薄いのだと思う。
ただ何年か前、違う。学生の頃に視たテレビか
そうじゃない。先月末に読んだ本の中に、違うよ。
そうだぁ、幼稚園の時だ。私はカトリック系の
幼稚園だったけれど、聖書の一節どころか、
聖歌の1つも憶えていないけれど。あの日の廊下。
絵をみた。日差しがコントラストの斜線で視界を
遮っていたから、直線の奥行き、直線の光、直線の、
直線の私は、廊下の正面に飾られていた絵の中に、
曲線を見つけた。魚の影だった。果物駕籠の下に
不自然に魚の影がついていた。その絵を見つめて。
誰もいない廊下で私は、魚を視ていたと思って。
でも、誰かがいたんだ。日差しは右側の窓から。
その絵の印象は魚にだけ焼きついて、そのまま
目ではなく記憶の隅っこに追いやってしまいこんで。
中学、高校はエスカレーターの女子校に進んでいた。
幼稚園以外ではクリスチャンとは無関係の生活。
無関係の家族。何故、幼稚園の頃だけだったのかは
後にもよく知らないし、知ろうとも思っていない。
そうして中学の頃、何もする事が無いままに、
放課後に図書室で宿題をしたり、本を眺めていた。
気が付いたら、今度はクリスチャンではなく、
いつのまにか図書委員になっていた。本を整理して
読んで、片付けて、貸し出して、気が付いてしまう。
イタリアの画家だった。カラヴァッジョという人。
テネブリズムという明暗の強いコントラストが特徴。
あの魚の影を描いた人。題名は「エマオの晩餐」。
とても美味しそうな絵なのです。光より闇が。
乱暴者で喧嘩か絵を描くか、極端なコントラスト。
殺人を犯してローマを逃げたけれど、赦しの為に
ローマへ戻る途中、38歳で病死したとか何だとか。
つまり描いた人の、お話は私が知りたい事とは
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