第1章

3/3
前へ
/3ページ
次へ
何も関係なかった。その絵だけを視れればよかった。 でも、そのチャンスは逃してしまった。  急いだのだけれど、それは随分と急いだのだけど。 間に合わなかった。門は閉まっていた。だから。  そこにも、あの日の廊下と同じ日差しで直線に 真っ二つにされていて、私はどうしても魚を見たくて 水族館へ行ったんだった。少し、思い出してきました。  水族館にいる沢山の魚は影では無くて。奇麗で。 回遊というより浮遊していて。何となく修復した後の ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の魚料理みたいで。  ご馳走だから。食べられなくて、げっそり痩せて。  死を乗り越えて浮かび泳ぐ、私の、右目の中の魚と 大分に違うんだなぁって、思うようになってから、 いつしか私の半分は、右目から丸呑みされるような。  明暗は著しく。なのにその境界は曲線で。 それは、一筆書きでなぞった魚のシルエットみたい。  幼稚園の廊下にいた人が、漁師なのか画家なのかは 私には判らないし、判ろうとしてはいないのだけれど。  生きていても死んでいても半分だけなのは、きっと たぶんきっと、魚が私で暮らしているせいなのも、 多少はあるのじゃないかなぁって、時々、思うのです。  いつかは釣り上げてみたいとも思うけれど。私は、 影を追っているのか、影法師を追っているのか。 どちらでも構わないのか、判然としままに毎朝毎朝。  ただ、左目に追い込んでみたくて堪らないんです。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加