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「これ。」
「え?」
「新作なんだろ?これ。昼にさ、社長が新作のクロワッサン売れてて従業員あんまり食べれないって言ってたから。まあ、まだ今日は残ってたみたいだし。その…今日遅れた、そのお詫びに。」
彼が僕に差し出したのは、新作のクロワッサンでした。僕はさっき食べたのですが、そんな事は絶対に言えません。でもそれより何より、彼が僕の為にこのクロワッサンを買ってきてくれた事、その事にとても胸の中が満たされた気持ちになりました。
「ありがとうございます。」
僕はもうそれだけで、十分でした。
「よし、行くか。」
「あの。」
「何だよ。」
「今食べてもいいですか?」
「ん?お腹空いてんの?なら言えよー。」
彼は少しふわふわとしたタオルを渡してくれました。その上に僕は付属の付近をそっと乗せてクロワッサンを食べ始めました。
「美味しいか?」
「はい。やっぱり美味しいです。」
「やっぱり?」
あ、違う。初めてだって言わなきゃ駄目なところだった、ここは。
「黒澤さんの新作はいつも美味しいから、今回もやっぱり美味しいんだって意味…です…」
「そっか。」
彼は少し目線を上にして、ハンドルを軽く握りしめました。
「行くぞ。揺れ、気を付けろよ。」
この車があまり揺れない事を僕は知っている。それでも彼はそう言ってくれる。それがとても嬉しいんです。
僕の待ち人はこうしていつも、僕を優しさで包んでくれるんです。
僕の日常はもう、彼なしでは、成り立たなくなったんです。
これが、恋なんですね。
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