LOT.3 九条亜沙美

8/22
前へ
/41ページ
次へ
 まだ三十代前半の若い彼が、大企業のゼネラルマネージャーという役職に就くためには、何らかの手段が必要だった。  彼は、結婚をその手段に使った。  人を愛することよりも、仕事での成功が彼にとっての幸せなのだ。 「だけど、キミなら愛することができるかもしれない」  彼は私の頬に手を置いて、目を細めた。  ふふっ、と私は笑ったあと、その手に触れながら訊いた。 「どうしてそう思うの?」 「だって、キミはとても美しい。背が高くて、スタイルも完璧で……、あのオークションでもキミ以上の女性はいなかった」  私の頬にあった手が、今度は髪に触れて、そして首筋から肩へと流れていく。 「この髪も、シルクみたいな白い肌も……」  彼のしなやかな指が、私の口もとへ移る。 「そして、このなめらかな唇も。キミほど素敵な女性には会ったことがないよ」 「あなたは、それだけで人を愛せるの?」  まるで私のほうがマイノリティ(少数派)だと言わんばかりに、彼は驚いた顔をした。 「そうだとしたら、何が悪い?」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加