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まだ三十代前半の若い彼が、大企業のゼネラルマネージャーという役職に就くためには、何らかの手段が必要だった。
彼は、結婚をその手段に使った。
人を愛することよりも、仕事での成功が彼にとっての幸せなのだ。
「だけど、キミなら愛することができるかもしれない」
彼は私の頬に手を置いて、目を細めた。
ふふっ、と私は笑ったあと、その手に触れながら訊いた。
「どうしてそう思うの?」
「だって、キミはとても美しい。背が高くて、スタイルも完璧で……、あのオークションでもキミ以上の女性はいなかった」
私の頬にあった手が、今度は髪に触れて、そして首筋から肩へと流れていく。
「この髪も、シルクみたいな白い肌も……」
彼のしなやかな指が、私の口もとへ移る。
「そして、このなめらかな唇も。キミほど素敵な女性には会ったことがないよ」
「あなたは、それだけで人を愛せるの?」
まるで私のほうがマイノリティ(少数派)だと言わんばかりに、彼は驚いた顔をした。
「そうだとしたら、何が悪い?」
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