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「その人のことを、もっと知りたいとか思わないの?」
「キミの身体のことは、もっと知りたいと思うよ」
悪びれることもなく彼はそう言って、私に唇を近づけた。
「だって、身体の相性も大切だろ?」
私は呆れたため息を吐いてから、その唇にそっと口づけた。
こんな男もいるんだ……
目を閉じて唇をかさねながら、そんなことを思った。
何度か軽いキスを交わしたあと、彼は満足したように立ち上がった。
「キミは、ここでゆっくりしていけばいい」
「ええ、今夜はこの広いベッドで一人寂しく眠ることにするわ」
彼は小さく笑って、クローゼットに掛けてあったジャケットを羽織る。
シーツにくるまったままの私はベッドで横になって、そんな彼の姿を眺めていた。
部屋を出ようとした彼の足が、ドアの前で止まった。
「シンガポールから帰ったら、また会いたいな」
「そうね……、桐谷さんがまた、オークションで落札してくれたらね」
「真佐人でいいよ」
少しだけ寂しそうな笑顔を投げて、彼は部屋を後にした。
ドアの閉まる音がすると、室内には静けさだけが残った。
琥珀色の中で目を閉じると、私の意識は暗闇の中へと沈んでいった。
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