LOT.3 九条亜沙美

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「その人のことを、もっと知りたいとか思わないの?」 「キミの身体のことは、もっと知りたいと思うよ」  悪びれることもなく彼はそう言って、私に唇を近づけた。 「だって、身体の相性も大切だろ?」  私は呆れたため息を吐いてから、その唇にそっと口づけた。  こんな男もいるんだ……  目を閉じて唇をかさねながら、そんなことを思った。  何度か軽いキスを交わしたあと、彼は満足したように立ち上がった。 「キミは、ここでゆっくりしていけばいい」 「ええ、今夜はこの広いベッドで一人寂しく眠ることにするわ」  彼は小さく笑って、クローゼットに掛けてあったジャケットを羽織る。  シーツにくるまったままの私はベッドで横になって、そんな彼の姿を眺めていた。  部屋を出ようとした彼の足が、ドアの前で止まった。 「シンガポールから帰ったら、また会いたいな」 「そうね……、桐谷さんがまた、オークションで落札してくれたらね」 「真佐人でいいよ」  少しだけ寂しそうな笑顔を投げて、彼は部屋を後にした。  ドアの閉まる音がすると、室内には静けさだけが残った。  琥珀色の中で目を閉じると、私の意識は暗闇の中へと沈んでいった。
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