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まるで、紅茶の中に浮かんでいるようだった。
琥珀色の間接照明と、肌を包む柔らかなシルクのベッドシーツが、私にそんな錯覚を抱かせた。
シティホテル最上階のスイートルーム、窓の向こうにちりばめられた光の宝石たち、仄かに漂う薔薇の香り、テーブルに置かれた飲みかけのシャンパングラス……
そんなラグジュアリーな空間の中で、私は男に抱かれていた。
乱れた息の彼が、時折低い快感の声をあげながら、私の目をじっと見つめる。
その逞しい身体が私を突くたびに、彼の汗が私の肌を濡らした。
「ああ……」
私の口から洩れた甘い声が、部屋に響く。
その声が引き金となって、彼の動きがもっと激しくなる。
身体を預けたまま目を閉じると、瞼の裏に残る紅茶色の残像が闇の中に溶けていった。
そのうち彼が大きな声をあげて、絶頂とともに身体を震わせた。
そして意識を失ったみたいに、私の上に力なく倒れ込んだ。
静かだった……
彼の息づかいと心臓の鼓動を肌で感じながら、紅茶の底に見える天井を、私はただ眺めていた。
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