LOT.3 九条亜沙美

　その声に会場の誰もが驚き、一斉に視線が彼へと向けられた。

　けれどその声の主は相変わらず涼しい顔で、腕を組んだまま座っている。

「さ、３６０万のコールが出ました！」

　オークショニアーがそう叫んで、３５０万のコールをした男性を見る。

　でも男性はすでに戦意を失ってしまったのか、それとも資金面でもう限界を超えてしまったのか……、がっくりと肩を落として椅子に座り込んだ。

　その姿を見たオークショニアーが、高々と振りあげたハンマーをテーブルに打ちつけた。

「九条亜沙美、３６０万で落札です！」

　桐谷真佐人は、たった一度のコールで私を落札した。

　さんざん他の男たちに競わせておいて、最後のひと言で手に入れる。

　ホテル同士が競い合って集めた客を、あとから根こそぎ奪い取ってしまうのと同じように……

　桐谷真佐人とは、つまりそういう男なのだ。