117

2/10
296人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 さっと一礼して、タツオは開始線へ進みでた。二本の開始線の距離は三メートル弱。正面に東園寺崋山(かざん)が神主(かんぬし)のような白装束(しろしょうぞく)で静かに立っている。顔色は依然として悪かった。やはり「呑龍(どんりゅう)」の連発は体力を擦(す)り減らすのかもしれない。対するタツオはまだ「止水(しすい)」を一度も発動していなかった。  東園寺派の長老から、過去の対戦結果と「止水」の威力は聞かされていることだろう。けれど自分で一度も体感せず、目撃もしていないのは、さすがのカザンでもかなりの不安だろう。未知ほど恐ろしいものはない。 「逆島断雄(たつお)、おれは子どもの頃から、おまえが嫌いだった」  審判が困った顔をした。カザンの背後には近衛(このえ)四家・東園寺家の勢力が控えている。それでも勇気を出して審判がいった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!