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君は深緑色のポンチョにくたびれたズボンにブーツという、いつものスタイルで、トレードマークの三角帽には、いつかの冒険の戦利品である鷲の羽根を飾っていた。
唯一の持ち物であるカーキ色のリュックと古ぼけたブリキのバケツを傍らに置き、今、丁度、湖へ目掛けて釣竿を放った所だ。
「この辺りでは何が釣れるの?」
「ニジマスだよ」
へぇと頷く間もなく、釣糸がピンと引っ張られて、君はいとも簡単に銀色の魚を釣り上げた。
感嘆の声を上げると、君は少し照れたように帽子を深く被り直し、ニジマスを水を張ったブリキのバケツに放し、餌を釣り針に仕掛けると、再び湖へ放った。
「キミは1人かい?」
放った釣り針の行方を追っていると、君は唐突に訊ねた。
「そうだよ。1人になりたくて旅に出たのに、いざ1人になってみると寂しいね。君は1人でいることが寂しくはないの?」
「寂しい?そんな風に思ったことは1度もないな。ぼくは孤独が好きだからね」
君はきっぱりとした口調でそう告げた。丁度2匹目のニジマスが釣り上がった所だった。
「君は旅の途中なの?」
「そうだよ。ぼくには帰る家がないからね」
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