166人が本棚に入れています
本棚に追加
電話越しで一馬の馬鹿にした声が聞こえてくる。近くにいたら小突くのに。
「就活頑張れよ」
「おう。とりあえず一社は近い内に面接行くんだ。見てろよ、一発合格だ」
「え、こっち来るってこと?」
「おう」
「ならうちに泊まれば?」
「えっ」
一馬の爆弾発言に間の抜けた声が自分の口からぽろりと出た。
一馬は当たり前のように、言葉をつらつらと続けていく。
「ホテルだと金勿体無いでしょ。あー、遠かったらあれだけど、近いならうち泊まりな? あの、狭いけど」
「あ、ありがとう」
お礼の言葉を述べる。それは無意識に肯定してしまったことの証だった。
友人に断られなかったことが嬉しかったのか、一馬は先程よりも嬉しそうな声色で「いつ来んの?」「どこの会社なの?」と質問をいくつもこちらに投げかけてきた。俺はそれに慌てるように返事を返していく。
「じゃあ、飛行機取れたら連絡くれよ。迎えに行くからさ」
そう言った一馬の声で今日の通話は終わった。
ぼふり。椅子のように利用していたベッドに倒れ込んでみて、クリーム色の天井を眺める。小さい頃からお世話になったこの部屋ともさっさとおさらばだ。
「……一馬、」
ぽつりと相手の名前を呟いてみる。誰もいないその部屋では返事なんて返ってくるはずもなく、寂しく自分の声が耳へと返ってくる。
通話したことを思い返して、じんわりと体が熱くなる。通話しただけでこんなだなんて、どれだけあいつの事が好きなのだろう。お泊りなんかして大丈夫なのだろうか、理性が。
自分の履いていたパンツに手を入れて、自身の陰茎に触れてみる。手が思ったより冷たくて、びくりと自分で体を揺らす。
「……ん、ん」
冷たいことにも構わず、俺は自分の右手で自身を包み込んで強めに上下に擦った。先程までの一馬を思い出して。
……一馬を、抱く想像なんかしちゃって。
「一馬……一馬ッ……」
息を次第に荒らげながら、擦る力を強めていく。罪悪感と快感がせめぎ合って、より快感へと変わっていく気がした。
こんなことしてるなんてバレたら、俺、一馬に軽蔑されるのかな。
最初のコメントを投稿しよう!