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正義に生きてこそのヒーローであろうが、この学園にひしめく”悪”とはいかに。愛に生きてこその男であろうが、世にはびこる生殖活動のどこに”愛”を見出すのであろうか。
もうそろそろ時期であろう紫陽花よりも早く、私はブレザーのボタンをゆっくりと全て外し、汗ばんだカッターシャツを表へと出した。
「なぁ、うえっちのところに行こうぜ!」
弁当を食べ終えた彼らは、わざわざ廊下に通ずる窓から飛び出て、セミにも劣らない笑い声を時雨させながらうえっちの元へと向かった。
うえっちとは、確か4組にいた上田のことであろう。
さしずめ、うえっちこと上田が先日吹奏楽部の北川さんを体育館裏に呼び出すという、古典的すぎてもはやユーモラスのある告白を試みたものの、見事に撃沈したという噂をかぎつけたのだろう。
私はそう悪いとは思わない。いや、むしろ、ロマンのあることではないのであろうか。こっぱずかしさを押しこらえ、目が泳いで眉がひくつく上田の顔が頭に浮かぶ。
少しのなぐさめと大いなる称賛を贈りたい気持ちにかられるのではあるが、実は私は上田とはまだ話したことはないのである。
私は自称的にふっと笑い、カバンから読みかけの小説を取り出した。
入学から約2ヶ月、未だ名前順の座席のままである1年2組。
吉田健太こと、この私はしっかりと端っこの窓際の席から不動である。
フィギュアスケーター顔負けのなめらかな動きで席から立ちあがり、少し湿った窓の前に設置された手すりにもたれかかる。
そして、片手を手すりにかけ、もう片方の手で自分の目線の高さで本を開いた。
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