プロローグ

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巧妙に並べられた文字の羅列を見つめながら、私は要点と要点をうまく理解しつつ、その光景を鮮明に思い浮かべ、そして最終的に要約すると、まぁこういうことになる。 上田はおとといの放課後、「明日、体育館の裏で待ってるから」と北川さんに伝え、緊張していたのであろう、言い終えるとすぐにその場からダッシュで立ち去った。そして上田は、翌日、昼休みに体育館の裏で待機していたのだが、いつまで経っても北川さんは来ず、諦めてしまったのである。 しかし、北川さんサイドの話も、前で弁当を食べている女子グループから耳に入ってきた。 「北川さんさぁ、昨日上田君に呼び出されて待っていたのに、すっぽかされたらしいよぉ。」 えー、かわいそう、などという不愉快な相槌を聞きつつ、私は思った。 体育館裏に女子を呼び出すなどという純情可憐な男が、すっぽかすはずなどあるわけがない。 さしずめ、上田は緊張のあまりに「いつ」というのを伝え忘れてしまっていたのであろう。そして、北川さんは、場所を伝えられたのが放課後であったため、てっきり放課後なのだと勘違いしてしまったのだ。 我ながら名推理である。 そして同時に、体育館裏というのも悪くないな、とも思った。 運動が苦手なために一番の恋のホットポイントである部活動をやむを得ず諦めてしまった私の放課後、それは、教室や図書室、近所の図書館などで本を読みながら黒髪ショートの美少女に声をかけられる妄想を繰り広げ、それが終わると、まだ見ぬ素敵な出会いを求めてぶらぶらと住宅街や商店街を彷徨い続ける。そしてそれにも疲れると、今度は家の近くにある公園のベンチで本を読みながらまたしても妄想を繰り広げ、やがて暗くなると、寝る前にはオンラインゲームの女性に声をかけまくる。 これが私の日課だ。 しかし、体育館の裏で本を読むというのも、このメニューに加えてもよいのかもしれないな。
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