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「ちょっと、なに無視してにやにやしてるのよ?
いい加減にしてよ、女だからってなめないでよね!」
「す、すみま、せせっ」
突然彼女が大声を出すものだから、私はうっかり情けない声を上げてしまった。
そうか、きっと彼女も大変なのだろう。
なめているつもりは毛頭ない。いや、むしろなめたいとも思わなくもないのではあるのだが、きっと強い教師になりたいのであろう、女であることがコンプレックスなのだ。
ここはひとつ、男として気の利いた言葉をかけてやらねば。
「そ、その、じゃっ、ジャージ、かっこい、いっ、す」
「は、なにいってんの?
早く閉めてって言ってるじゃない!」
「す、ませっんっ……」
また大声をあげられたため、私は慌ててブレザーのボタンを閉めようとしたのだが、手元が狂ってしまい、ひとつボタンが弾け飛んでしまった。
「あっ、あの、すみま、ん……」
すると、木下は明らかに怪訝そうな顔を私に向けた。そうして、ため息を吐きつつ身を翻し、そのまま教室をすたすたと立ち去った。
私は地面に転がったボタンを拾おうと屈み込んだのだが、同時に教室のあちらこちらから、くすくすと笑い声が聞こえた。
そのじりじりと耳についた笑い声は一日中リフレインし、立ち上がった時に私に向けられたねっとりとした視線は一日中フラッシュバックした。
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